多血症とは何か?原因・症状・血栓リスクから最新治療法まで完全解説
健康診断で「赤血球が多い」「ヘマトクリット値が高い」と指摘されたことはあるだろうか。あるいは、慢性的な頭痛やめまい、顔がいつも赤い——そんな症状を長年うやむやにしてきた人も少なくない。こうした状態の背後に潜んでいる可能性があるのが、「多血症」だ。
多血症とは、血液中の赤血球が異常に増加した状態を指す血液疾患の総称で、放置すれば脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす血栓症のリスクが高まる。ところが自覚症状が乏しい段階も多く、気づかぬうちに進行しているケースが後を絶たない。本記事では、多血症の基本的な定義から原因・症状・診断基準・治療法まで、2026年時点の最新知見をもとに徹底的に解説する。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:多血症は赤血球・ヘマトクリット値が基準値を超えた状態で、骨髄が原因の「真性多血症」と生活習慣や疾患が原因の「二次性多血症」に大別される。
- 要点2:放置すると血液の粘度が上昇して血栓が生じやすくなり、脳梗塞・心筋梗塞・深部静脈血栓症などの重篤な合併症リスクが急増する。
- 要点3:真性多血症は完治が難しい一方で瀉血・薬物療法で長期コントロールが可能であり、二次性多血症は原因を取り除くことで改善が見込めるため、早期受診と正確な鑑別が極めて重要。
【基礎知識】多血症とは何か?赤血球増加症との定義と違い
「多血症」という言葉を医学的に正確に定義すると、血液中の赤血球数・ヘモグロビン濃度・ヘマトクリット値(Hct)が正常範囲を超えて増加した状態を意味する。英語では "polycythemia"(ポリシテミア)または "erythrocytosis"(エリスロサイトーシス)と表記されるが、日本語では「多血症」と「赤血球増加症」がほぼ同義として使われることが多い。
ただし、厳密には使い分けがある。「赤血球増加症(erythrocytosis)」は赤血球の絶対量が増加した状態を指す純粋な生理学的概念であるのに対し、「多血症(polycythemia)」は赤血球だけでなく白血球や血小板が同時に増加するケースを含む、より広い概念として用いられることがある。特に真性多血症(polycythemia vera)では、3系統すべての血球が増殖するため、「多血症」というより包括的な名称が使われる。臨床現場では両者を区別せず使う場面も多く、文脈によって意味が変わる点に注意が必要だ。
また、一時的に血漿量が減少することで赤血球の「濃度」が相対的に上昇する「相対的多血症(偽性多血症)」というケースも存在する。脱水状態や過度のアルコール摂取、利尿剤の使用などで起こるもので、赤血球の絶対数は増えていない。これは「絶対的多血症」とは根本的に異なり、原因に対処すれば速やかに改善する。
【疾患の核心】真性多血症と二次性多血症——似て非なる2つの原因
多血症を大きく分類すると、骨髄そのものに問題がある「真性多血症」と、別の疾患や生活習慣が引き金となる「二次性多血症」に分かれる。この2つを正確に見極めることが、治療方針を決める上で決定的に重要だ。
真性多血症(Polycythemia Vera)は、骨髄増殖性腫瘍(Myeloproliferative Neoplasm, MPN)の一種に分類される血液がんの仲間だ。造血幹細胞における遺伝子変異——とりわけJAK2 V617F変異——が原因となり、骨髄が自律的に赤血球(さらには白血球・血小板も)を過剰産生するようになる。JAK2変異は真性多血症患者の95%以上に検出される重要なマーカーとなっている。発症のピークは60〜70歳代で、中高年以降に多く見られるが、30〜40歳代での発症例も報告されている。
一方の二次性多血症は、体内の酸素が慢性的に不足した状態への生体反応として起こるケースが代表的だ。体が「酸素が足りない」と判断すると、腎臓からエリスロポエチン(EPO)というホルモンが多量に分泌され、赤血球産生を促進する。この仕組みが過剰に働いた結果、多血症が生じる。主な原因には以下が挙げられる。
まず喫煙は、一酸化炭素(CO)を体内に取り込むことでヘモグロビンの酸素運搬能力を著しく低下させ、代償的な赤血球増加を引き起こす。長年のヘビースモーカーに多血症が多い背景にはこの機序がある。肥満・睡眠時無呼吸症候群(SAS)も同様に慢性的な低酸素血症を招き、EPOを過剰分泌させる。また慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全など心肺機能の低下、高地居住者、先天性心疾患なども二次性多血症の原因になり得る。さらにまれなケースでは、腎臓がんや肝細胞がんなどの腫瘍がEPOを異所性に産生することで多血症を引き起こすこともある。
この2つの違いが治療に直結する。二次性多血症であれば禁煙・体重管理・原疾患の治療によって改善が見込めるが、真性多血症は骨髄の遺伝子異常が根本にあるため、生涯にわたるコントロールが必要となる。
【症状と検査値】頭痛・めまい・顔の赤みから血液検査の読み方まで
多血症の症状は多彩だが、初期段階では「なんとなく体が重い」「顔色が悪い(逆に赤すぎる)」といった曖昧な訴えにとどまりがちだ。代表的な症状を整理しておこう。
最も典型的なのが顔面・皮膚の赤み(多血症顔貌)だ。赤血球が増えて血液の粘度が上がり、毛細血管に血液が滞留することで、顔や手のひらが赤みを帯びる。また頭痛・めまい・耳鳴りも高頻度に見られる。粘度の高い血液が脳の細い血管を流れにくくなることで、頭部への血流が不均一になるためだ。さらに入浴後や温水シャワー後の全身のかゆみ(水性掻痒感)は、真性多血症に特徴的な症状として知られており、診断の重要な手がかりとなる。
血液検査で注目すべき数値は以下の通りだ。
【ヘマトクリット値(Hct)の正常範囲と多血症の基準】
ヘマトクリット値とは、血液全体に占める赤血球の割合を示すパーセンテージだ。男性の正常範囲は40〜52%、女性は35〜47%とされており、一般的に男性で52%超、女性で48%超が持続する場合は多血症が疑われる。WHO(世界保健機関)の真性多血症診断基準では、ヘマトクリット値が男性49%超、女性48%超であることが主要基準の一つに含まれており、以前の基準よりやや低い閾値が設定されている(2016年改訂版)。
【赤血球数・ヘモグロビン値】
赤血球数は男性で450〜550万/μL、女性で380〜480万/μLが基準とされる。ヘモグロビン値は男性13.5〜17.5 g/dL、女性11.5〜15.5 g/dL。これらが複数の検査で継続的に基準を超える場合、精密検査の対象となる。
また血液検査では、エリスロポエチン(EPO)値の測定も重要だ。真性多血症では骨髄が自律的に赤血球を産生するためEPO値は低下または正常下限となる一方、二次性多血症では低酸素刺激に応じてEPO値が上昇する。この差異が鑑別の決め手のひとつとなる。
【リスクと危険性】放置するとどうなる?血栓・脳梗塞が現実の脅威に
「症状が軽いから大丈夫」と多血症を放置し続けることは、命取りになりかねない選択だ。
多血症の最大の危険は、血液粘度の上昇による血栓形成にある。赤血球が増えすぎると血液がどろどろになり、血管内で血栓(血の塊)ができやすくなる。これが脳の血管に詰まれば脳梗塞、心臓の冠動脈に詰まれば心筋梗塞、足や肺の血管に生じれば深部静脈血栓症・肺塞栓症を引き起こす。真性多血症の患者における血栓症のリスクは、一般集団の3〜4倍との報告もある。
また、逆説的なことに、多血症では出血リスクも高まる。血小板数が過剰になることで血小板機能が逆に低下し(後天性フォン・ヴィレブランド病類似の状態)、鼻血・歯肉出血・胃腸出血などが起きやすくなる。
真性多血症を治療せずに放置した場合、一部の患者では骨髄線維症(MF)や、さらに稀なケースでは急性白血病(AML)へと移行する可能性がある。特に骨髄線維症への移行率は診断後10〜20年で10〜20%程度とされており、長期経過のモニタリングが必須だ。「症状がないから」と受診を先延ばしにすることが最もリスクを高める行動であることを、強く認識しておく必要がある。
【診断のプロセス】診断基準と検査方法——血液検査から骨髄生検まで
多血症の診断は、段階的なアプローチで進められる。
最初のステップはやはり血液一般検査(CBC:Complete Blood Count)だ。ヘマトクリット値・ヘモグロビン・赤血球数・白血球数・血小板数を確認し、複数回の検査で異常値が持続することを確認する。次にエリスロポエチン(EPO)値、JAK2 V617F変異の遺伝子検査(血液または骨髄で実施)、鉄代謝検査(血清フェリチン・血清鉄など)、腎機能・肝機能検査が行われる。
真性多血症の2016年WHO診断基準では、以下の3つの主要基準と1つの副次基準が定義されている。
主要基準の①はヘモグロビン値の上昇(男性16.5 g/dL超・女性16.0 g/dL超)またはヘマトクリット値の上昇(男性49%超・女性48%超)。②は骨髄生検での骨髄過形成所見(3系統の過形成と成熟した多形巨核球)。③はJAK2 V617Fまたはエクソン12変異の存在。副次基準は血清EPO値の正常下限未満。診断には主要基準3つすべて、または主要基準①③と副次基準の充足が必要とされる。
骨髄生検は局所麻酔下で腸骨(腰骨)から骨髄液・骨髄組織を採取する検査だ。確定診断に欠かせない一方で、患者への負担も大きいため、血液検査とJAK2変異検査で十分な根拠が得られた場合は省略されることもある。
【治療の最前線】多血症の治療法と使用する薬——完治は可能か?
多血症の治療方針は、「真性多血症か二次性多血症か」「血栓リスクがどの程度か」によって大きく異なる。
二次性多血症については、原因となっている疾患や生活習慣の改善が治療の主軸だ。喫煙が原因であれば禁煙、肥満・睡眠時無呼吸症候群が原因であれば体重管理とCPAP療法、COPDが原因なら吸入薬などで基礎疾患を治療する。原因が除去されれば、多くの場合ヘマトクリット値は正常化に向かう。
真性多血症の治療は、リスク分類に基づいて行われる。
【瀉血療法(Phlebotomy)】
最もシンプルで即効性のある治療法が瀉血(しゃけつ)だ。一回あたり200〜400mLの血液を採取し、ヘマトクリット値を男性45%未満、女性42%未満に維持することを目標とする。輸血と逆の発想で、血液を「抜く」ことで粘度を下げ、血栓リスクを低減する。副作用が比較的少なく、低リスク患者には瀉血だけで管理できることも多い。
【抗血小板療法】
低用量アスピリン(81〜100mg/日)が血栓予防を目的として広く使用される。真性多血症患者に対するアスピリン投与が血栓症・心血管イベントのリスクを有意に低下させることは、2001年のECLAP試験で示されており、現在も治療の標準的な柱の一つだ。
【細胞減少療法(骨髄抑制薬)】
高リスク患者(60歳以上または血栓症の既往あり)には、ヒドロキシウレア(羟基尿)が第一選択薬として使われる。骨髄での血球産生を抑制し、赤血球・白血球・血小板の過剰産生を抑える。長期使用による二次白血病のリスクは低いとされているが、長期モニタリングは欠かせない。
【JAK阻害剤:ルキソリチニブ(Ruxolitinib)】
ヒドロキシウレアが無効または不耐容の患者に対して、ルキソリチニブ(商品名:ジャカビ®)が使用される。JAK2を選択的に阻害することで、異常な細胞増殖シグナルを遮断する分子標的薬だ。日本では2019年に真性多血症への適応が承認されており、かゆみや脾腫(ひぞしゅ)の改善にも効果が認められている。2026年現在、次世代JAK阻害剤や新規経口薬の臨床試験も複数進行中だ。
気になる「完治の可能性」だが、真性多血症は現状では根本的な「完治」を望むのは難しい。唯一の根治的手段は同種造血幹細胞移植(骨髄移植)だが、治療関連リスクが高いため、若年の高リスク患者に限定される。一方で、適切な治療を継続することで、多くの患者が一般と遜色のない生活の質(QOL)と生命予後を維持できる疾患でもある。二次性多血症であれば、原因除去により完全に正常化するケースも多い。
【受診ガイド】どの科に行けばいい?内科・血液内科の選び方
「多血症かもしれない」と感じたとき、最初にどの医療機関を訪れるべきか——これも多くの人が迷うポイントだ。
健康診断で赤血球数やヘマトクリット値の異常を指摘された場合、まずはかかりつけの内科に相談することが現実的な第一歩だ。内科医が血液検査を精査し、必要に応じて専門医に紹介する流れが一般的だ。
「真性多血症の可能性が高い」「JAK2変異検査や骨髄生検が必要」と判断された場合は、血液内科(血液専門医)への受診が必須となる。血液内科は大学病院・総合病院・がんセンターに設置されていることが多く、骨髄増殖性腫瘍の診療経験豊富な専門医のもとで精密検査・治療を受けることが重要だ。
二次性多血症が疑われる場合は、原因疾患を扱う診療科——睡眠時無呼吸症候群なら睡眠外来・耳鼻科・呼吸器内科、COPDなら呼吸器内科、腫瘍性ならば腫瘍内科——との連携も必要になる。
日本血液学会のウェブサイトでは、血液専門医の認定医・施設の一覧が公開されており、受診先を探す際の参考にできる。また、2026年現在、オンライン診療(遠隔医療)も整備が進んでいるが、血液検査や骨髄生検などは実際の医療機関への受診が不可欠なため、あくまで「相談・フォローアップ」の補助手段として位置づけるべきだ。
【多血症とは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:多血症は自覚症状がなくても治療が必要ですか?
A1:必要です。特に真性多血症の場合、症状がほとんどなくても血液の粘度が上昇しており、血栓形成のリスクが高まっています。無症状であっても、ヘマトクリット値が基準を超えていれば瀉血や低用量アスピリンによる治療を開始するのが現在の標準的な方針です。放置期間が長いほど血栓症や骨髄線維症への移行リスクが高まるため、指摘された時点での専門医受診をお勧めします。
Q2:喫煙をやめれば多血症は治りますか?
A2:喫煙が主な原因の二次性多血症であれば、禁煙によってヘマトクリット値が正常範囲に戻るケースは多くあります。ただし真性多血症の場合は喫煙とは別の原因(JAK2遺伝子変異)によるものなので、禁煙だけでは改善しません。いずれにしても喫煙は多血症を悪化させ、血栓リスクをさらに高めるため、禁煙は必須の対策です。
Q3:多血症は遺伝しますか?子どもへの影響は?
A3:真性多血症の原因となるJAK2変異は、多くの場合「体細胞変異」(生涯を通じて後天的に獲得した変異)であり、直接的に親から子へ遺伝することはほとんどありません。ただし、まれに家族性の骨髄増殖性腫瘍素因の報告もあるため、家族内に複数の患者がいる場合は血液専門医に相談することが望ましいでしょう。二次性多血症については遺伝性はなく、生活習慣や環境要因が主因です。
Q4:ヘマトクリット値が少し高い程度でも病院に行くべきですか?
A4:一回の検査で軽度に高かっただけなら、脱水や採血の誤差の可能性もあります。ただし、複数回の検査でも高値が続く場合、あるいは頭痛・めまい・顔の赤みなど症状を伴う場合は、内科への受診をお勧めします。「少し高い程度」と自己判断して放置するのが最も危険なパターンです。
Q5:多血症の患者はどんな食事・生活習慣に気をつけるべきですか?
A5:鉄分の過剰摂取は赤血球産生を促進するため、鉄のサプリメントは医師の指示なく服用しないことが重要です。水分を十分に摂取して血液粘度を下げることも大切です。禁煙・適正体重の維持・定期的な有酸素運動(ただし過度の運動は脱水を招くため注意)も推奨されます。アルコールは血小板凝集に影響するため、適量にとどめましょう。
まとめ:多血症は「気づき」と「早期受診」がすべてを変える
多血症は、健康診断の数値異常や慢性的な頭痛・めまい・顔の赤みといった症状として、日常のすぐそばに存在している疾患だ。それが単なる生活習慣の影響による二次性多血症なのか、骨髄増殖性腫瘍の一種である真性多血症なのかによって、治療方針も予後もまったく異なる。
重要なのは、「血液検査で引っかかった」「症状が気になる」と感じた時点での行動だ。内科・血液内科への早期受診によって、JAK2変異検査やエリスロポエチン値の測定でほぼ正確な鑑別が可能となり、瀉血・アスピリン・ヒドロキシウレア・JAK阻害剤といった治療選択肢を最適なタイミングで使い始めることができる。
2026年時点でも真性多血症の根本治療(造血幹細胞移植以外)は確立されていないが、適切な管理のもとで長く良好な状態を維持できる患者が多いことも事実だ。「怖いから受診したくない」という心理は非常に自然なものだが、放置による血栓・脳梗塞リスクの方がはるかに大きい脅威となる。「顔が赤い」「健診で赤血球が多かった」——そんな小さなサインを見逃さないことが、自分の命を守る最初の一歩になる。 (出典: 多 血 症 と は(Yahoo!ニュース))